06.無自覚の誘惑A
「いた・・・」
「どうしたんだい、。」
「何か・・・目に、ゴミが・・・」
「擦るとその綺麗な瞳が傷ついちまうぜ・・・見せてごらん。」
そう言いながら俯いていた姫君の顎に指をかけて上を向かせる。
「・・・ゆっくり目を開けるんだ。」
優しく声を落とせば、閉じられていた瞳がゆっくり開く。
いつも以上に潤んでいる瞳
涙を流した所為で、微かに赤くなっている目
痛みの所為か、僅かに開いた唇からはかすかな吐息が洩れている。
いつも清純な姫君からは想像も出来ない姿に、自然と鼓動が早くなる。
「ヒノエ・・・どう?」
「・・・あ、あぁ。どうやら睫毛が入っているみたいだね。」
「そう・・・」
何度か瞬きをしている姿は、まるでオレを誘っているようだ。
――― 参ったね
あからさまに誘われるよりも、無自覚の誘惑ほど厄介なものはない。
今にもクラリといっちまいそうな状況を、必死で耐え忍ぶオレの前で・・・姫君の唇から甘い声が洩れた。
「あ・・・」
それはゴミが取れた時に洩れた声だったけれど、普段見られない姿をずっと見ていたオレには・・・まるで甘い蜜のような吐息。
「取れたよ、ヒノ・・・」
喜びと共に呼ばれた名は、唇から唇へ移され・・・そのままオレの心に染み込んだ。